阿佐ヶ谷chillout

何もないから寒い

四月

閉店のお知らせ、というタイトルのメールが届いた。

いつ利用したかすぐには思い出せなかったが、マジックザギャザリング、以下MTGを専門に扱うネットショップだった。メールのログを遡った結果、昔友好色フェッチランドが再録されたタルキール覇王譚のころに古い基本土地を探して買ったお店であることがわかった。8版の沼と平地と、9版の平地。改めてショップのページを見て回って、モダン用の細いサイドボード用のカードと、残っていた白枠の基本土地を数枚買った、昔買ったときと同じように。


shottoko.diarynote.jp


MTGを始めたばかりのころで、中野の遊vicで何回か大会に出ていたとき、近くの雑居ビルの5Fだかに別のカードショップがあった。そのお店はMTG以外も取り扱っていたが、遊vicに比べれば知名度の低さは一目瞭然だった。そのころはアルバイト生活をしていたために休みが不規則で、同じく平日休みの友人を中野に呼んで何度も遊びに行った。晴れる屋はそのころまだトーナメントセンターではなかったと思う。MTGは買取の表も品揃えもそれなりに多かったが、公認大会は行っていなかった。仲良くなった店員がいたわけでも、地元で集まる友達がいたわけでもなかった。空いている10席のデュエルスペースに流れる少し古いJ-POPの有線が心地よかった。その頃はカードショップがどうやって収益を上げているのかなんて一つもわからなくて、とりあえず行くたびにショーケースやバインダーからなんとなく気になったカードを買っていた。だいたいがスタンダードのアンコモンやレアだったがそのうち古いカードにも興味が出てきて、絵が綺麗だからという理由で隕石のクレーターを150円くらいで買った。その後家に帰ってから調べて、「使えないカードランキング」のうち80位にいることもわかったがこれっぽっちも気にしなかった。嘘、パックか他のカードを買えば良かったかと少し気にした。


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冬のあとには春が来る。
――― 「何ごとも変化する」と言う意味の、エルフの言い回し.


昔を思い出しながら、昔と同じゲームをまだやっていて、昔よりもかける時間はわからないが、使う金額は確実に増えた。強さを第一基準に、自分のデッキで使うカードだけを必要なタイミングで買って大会に出るのが一番ロスがない、そう気づくのに結構時間がかかった。もうどこにやったかも覚えていないから、この間モダンマスターズ2017で再録された瞬唱の魔道士を買うために1枚5円でまとめて売ったカスレアの中にあの時買った隕石のクレーターがあったと思う。
使えるかどうかもわからないのに妙に惹かれて、買うか迷ってショーケースの前でじっとしていた頃を、ついにそのカードを買ってしまってワクワクしながらデッキを組む瞬間を忘れたくないと感じる自分と、マジックはメンタルのゲームだから、対戦に臨む上で感情の機微に振り回されたくないと思っている自分が両方いる。遊んでいた中野のお店はその後半年経たずに潰れて、最終営業日に何か買い物をした気がするが何を買ったか覚えていない。ビルにはまだ看板だけが残っていて、見上げるたびに有線を聞きながら極北のエイヴンの能力を起動して絆魂をつけていた事を思い出す。オリヴィア・ヴォルダーレンを買った大久保の店も、初めてFNMで3-0してプロモカードをもらった秋葉原の店も今はもうない。あの頃と比べてまだ一緒に遊んでる友達も、遊ばなくなった友達もいる。今よく足を運ぶ高田馬場にはこの半年でカードショップが2店舗増えて、今度のGP神戸は2年前に比べて参加費が3500円から1万円に増えたらしい。ウィザーズが収益をどのくらい上げていて、日本でどのくらいプレイヤーが増えているのか僕にはよくわからない。昔の方が良かったというつもりはないし、何が正しいかを論じる気もない。また四月が来て、少し昔を思い出した、それだけの話です、今日は。